栗原政史の描く「木工デザイン」という生き方

栗原政史は、静岡県の山間部にアトリエを構える木工作家だ。
特に、暮らしの中で毎日触れる「手触り」にこだわった作品づくりに定評がある。椅子、テーブル、まな板、引き出しの取っ手まで、一つひとつ丁寧に木を削り出し、塗装やニスも自然由来の素材を用いる。「使い続けていくほどに味が出る」と評判で、県内外からリピーターが訪れるほどだ。

大量生産ではなく、「日常の中で心が休まるものを」という彼の姿勢は、自然とものづくりに向き合う人々の共感を呼んでいる。栗原政史にとって、木工とは単なる技術ではなく、「暮らし方そのもの」なのだ。

海外生活から見えた、日本の手仕事の価値

今でこそ国内で活動する栗原政史だが、かつてはヨーロッパで生活していた時期がある。デザインの本場である北欧の国々で、家具や道具に宿る「空気感」に感銘を受けたという。しかし、同時に強く感じたのが、日本の手仕事の奥深さだった。

「当たり前に使っていた漆の箸や、祖父が使っていた木の茶筒。ああいうものって、実はすごく美しいんだと気づいたんです」

その経験が帰国後の創作に生かされ、伝統的な木工技術に独自のアレンジを加えたデザインが生まれていった。特に彼の代表作でもある「一枚板のカッティングボード」は、2022年のクラフト展で高く評価され、静かに注目を集めている。

若手クリエイターとのコラボレーション

栗原政史は、次世代との関わりも大切にしている。地域のデザイン専門学校や職業訓練校と連携し、若手クリエイターたちと一緒に作品を制作したり、ワークショップを開催したりしている。

「上手い下手よりも、自分の“好き”に素直であってほしい」と語る栗原氏のもとには、SNSで彼の作品に惹かれた学生たちが全国から集まってくる。木の香りがただようアトリエで、世代を超えた対話が生まれ、共に手を動かしながら新しい発見をする時間。それは彼にとって、何よりの創作活動でもあるようだ。

今後はオンラインでの講座や、海外での展示も視野に入れているという。個人の作家活動にとどまらず、木工デザインの新しい波を広げている存在と言えるだろう。

持続可能な社会と、手仕事のこれから

近年、「サステナブル」「エシカル」といったキーワードが注目される中で、栗原政史の取り組みもまた、静かな支持を集めている。
彼の工房では、山林整備で出た廃材や間伐材を積極的に使用しているほか、作業工程で出る端材も可能な限り活用している。小さな木片を組み合わせて作ったコースターやオブジェは、むしろ作品として高い評価を受けているほどだ。

「モノに“役目”があるように、木にも“第二の命”があると思うんです」

そんな信念のもと、栗原氏は今日も黙々と木と向き合う。効率や流行を追うのではなく、あくまで自然と共にあるものづくり。大量生産・大量消費の時代に、こうした価値観を持つ作家の存在は貴重だ。

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